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東京地方裁判所 昭和33年(行)187号 判決

原告 田辺良隆 外一名

被告 東京都知事・北区田端復興土地区画整理組合

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告東京都知事は、昭和三十三年十月十八日になした被告北区田端復興土地区画整理組合(以下単に被告組合という。)の設立認可の無効なることを確認せよ。被告組合は、その設立の無効なることを確認せよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として次の通り陳述した。

一、被告組合は、土地区画整理法第二十一条第三項により昭和三十三年十月十八日被告東京都知事の認可により設立されたものであつて、原告らは、被告組合の区画整理施行地区たる土地の一部の所有者である。

二、これより先、昭和二十三年三月十三日訴外田端復興土地区画整理組合(以下単に訴外組合という。)が設立された。右訴外組合と被告組合との各土地区画整理事業施行地区は重複している。

訴外組合は、設立後昭和三十三年三月一日迄土地区画整理事業を施行したが、同三十三年二月十五日、訴外組合設立無効の判決が確定した。(東京地方裁判所昭和二四年(ワ)第四、九七七号、同二五年(ワ)第五七六号組合設立無効確認及び設立認可無効確認請求事件、同裁判所昭和三十年六月三十日言渡)

三、訴外組合は、右区画整理事業の施行として同組合地区約二十五万坪の内約三割に達する区域について、道路の新設、換地予定地の指定その他の行為等をなし、その為、訴外組合と組合員間、或は多数の第三者との間に発生した法律関係は錯綜している。しかして、右設立無効判決確定後訴外組合は直ちに清算手続に入り、現在清算手続中である。

四、右の如く、訴外組合は清算手続中のものであるから、清算の目的の範囲内においてはなお存続するものである。このことは商法における会社設立無効判決のあつた場合に関する規定等からしても当然の事理である。

そうして、被告組合との土地区画整理事業施行地区は重複しでいるのであるから、被告組合はその事業施行目的土地を缺くものであり、又被告組合の設立については訴外組合の同意がなかつたものであるから、被告東京都知事のなした被告組合設立認可並びに被告組合の設立は土地区画整理法第二十一条第一項第二号、第百二十八条第一項の規定に反する違法があり、いづれも無効というべきものである。

被告東京都知事指定代理人及び被告組合訴訟代理人は、いづれも主文同旨の判決を求めた。

被告東京都知事指定代理人は、請求原因に対する答弁並びに同被告の主張として左の通り陳述した。

一、請求原因第一項ないし第三項記載の事実は認める。同第四項記載の事実中、被告組合の設立につき訴外組合の同意がなかつた点は認めるが、その余の点は争う。

二、訴外組合の設立認可無効の判決は、訴訟当事者たる処分庁(被告東京都知事)を覊束する関係上、右判決の確定によつて訴外組合に対する設立認可は当初より無かつたこととなり、訴外組合はその設立の要件を欠くわけであるから、訴外組合が法人格なき一個の社団として存在していたことは認めなければならないけれども、土地区画整理事業施行者としての訴外組合は、何人に対する関係においても当初から存在しないものと言わなければならない。

原告らは、右無効判決確定後においても、商法における会社の場合等と同様に、訴外組合も清算の目的の範囲内にて存続するというが、商法における規定は、私法上の取引関係の安全を図るに出た特別規定であり、この規定を公法上の土地区画整理組合の場合にまで類推適用することは誤りである。

よつて、土地区画整理事業の施行者としての訴外組合なるものは存在しないものであり、その区画整理事業の施行地区なるものも当初より存在しないのであるから、被告組合の設立認可をなすにつき、訴外組合の同意を得る必要なく、従つて、被告組合の設立認可並びにその設立が土地区画整理法第百二十八条第一項の重複施行の制限の規定に反するとの原告らの主張は理由がない。

三、仮に、訴外組合が清算の目的範囲内において存続しているとしても、その清算なるものは、土地区画整理事業を打切る方向えの消極的な区画整理事業であり、被告組合の積極的な同事業の施行とは全く方向を異にするものであるから、訴外組合の同意なくしてなされた被告組合の設立が同法第百二十八第一項の規定に反するものとはいえない。

被告組合訴訟代理人は、請求原因に対する答弁並びに同被告の主張として、被告東京都知事指定代理人の右陳述中第一、第二項と同趣旨の陳述をなした。

理由

請求原因第一ないし第三項記載の事実並びに被告組合の設立につき訴外組合の同意のなかつた事実は、各当事者間に争いない事実である。

土地区画整理組合の設立或は組合設立についての認可処分の無効の判決が確定した場合において、その組合の法律上の性格を、原告の主張する如く無効判決確定後も商法における会社等の場合と同様に解散の場合に準じて清算の目的の範囲内において存続するものと為すべきか、或は被告の主張するようにその組合は当然に存在しないものと解すべきかは、関係法規上に明文の規定なく、種々困難な問題を蔵し、右いづれの解釈が正しいかは、一概に決し得ないところである。

しかしながら、土地区画整理法第百二十八条第一項の規定は、現に施行されている土地区画整理事業の施行地区に対し、更に別個の土地区画整理事業が施行されるような場合に、両者の土地区画整理事業の施行の競合から、当然生ずることが予想される混乱を予防するために、新たな土地区画事業の施行を制限し、旧来の事業施行者の同意を必要とすることとした趣旨の規定と解すべきであつて、右規定或は同条第二項の規定が、その土地区画整理事業施行地区の重複する新たな土地区画整理組合の設立或は設立認可をなすにつき旧組合の同意を要することを規定したものと解することはできない。その他新組合の設立等について旧組合の同意を必要とする旨の規定はなく、又土地区画整理組合の設立手続と、土地区画整理事業の施行とは別個の問題というべきであり、新組合の設立そのものにつき旧組合の同意を必要としなければならないような理由が存するとも考えられない。

そうすると、被告組合の設立或は設立認可については訴外組合の同意は必要ないものというべきであるから、訴外組合の同意がなかつたことを原因とする被告組合の設立等の無効を主張する原告らの主張はその理由ないものというべきである。又、原告らの主張するような訴外組合と被告組合との土地区画整理施行区域が重複しているということが被告組合の設立等を無効ならしめる理由となるということはできないし、その他被告組合の設立等を無効ならしめるような事由については何らの主張立証もない。

よつて、原告らの請求はいづれもその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

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